White Album 2/Script/2312
Revision as of 05:21, 10 August 2017 by Cthaeh (talk | contribs) (Protected "White Album 2/Script/2312": project staff request ([Edit=Allow only autoconfirmed users] (indefinite) [Move=Allow only autoconfirmed users] (indefinite)))
Return to the main page here.
Translation
Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 女子生徒4 | Female Student 4 | 「ね、ちょっと…」 | ||
2 | 女子生徒5 | Female Student 5 | 「ん? なに~?」 | ||
3 | 女子生徒4 | Female Student 4 | 「ほら、向こう。大学の正門とこ。 ウチの制服着てる…」 | ||
4 | 女子生徒5 | Female Student 5 | 「あの人…? 確か三年の…ああ!」 | ||
5 | 女子生徒4 | Female Student 4 | 「だよね? やっぱりあの人だよね? よかった、見間違いじゃなかったんだ」 | ||
6 | 女子生徒5 | Female Student 5 | 「相手がウチの大学の人って噂、本当だったんだ…」 | ||
7 | 武也 | Takeya | 「いや本当助かった! 語学系はなかなかノート揃わなくてさぁ」 | ||
8 | 春希 | Haruki | 「…いい加減、他学部にまで借りに来るのはやめろ」 | ||
9 | 昨夜、日付の変わり目くらいにかかってきた電話は、 『春希、明日フランス語のノート持ってきてくんね?』 という、非常にフレンドリーなものだった。 | ||||
10 | 武也 | Takeya | 「お前が勝手に転部するから悪いんだろ。 おかげで俺の成績にどれほどの悪影響が出たか、 真面目に考えたことあるのか?」 | ||
11 | 春希 | Haruki | 「…まずは試験を自分の実力で受けることを 真面目に考えろ」 | ||
12 | …着信を見ずに通話ボタンを押してしまった俺は、 数秒間凍りついてしまったけれど、それはまた別の話。 | ||||
13 | 武也 | Takeya | 「さて、と… 今日これからどうする?」 | ||
14 | 春希 | Haruki | 「帰ってすぐに勉強に決まってるだろ」 | ||
15 | 武也 | Takeya | 「…なんという模範的で面白くない回答。 相変わらず大学生らしくないな」 | ||
16 | 春希 | Haruki | 「…つい今しがたまで 随分と無駄な時間を浪費させてもらったからな」 | ||
17 | 試験が終わった後向かったコピー機前の大行列は、 そこに並ぶデメリットしかない俺を大いに嘆かせた。 | ||||
18 | 武也 | Takeya | 「…無駄な時間なら浪費してもいいじゃん? 何言ってんのお前」 | ||
19 | 春希 | Haruki | 「ああっ!? お前、修飾関係をわざとミスリードすんのやめろ! 俺が紛らわしい言い方したみたいじゃないか!」 | ||
20 | 武也 | Takeya | 「いや実際紛らわしかったんだって。 …礼と詫びの意味で晩飯おごろうと思ってたんだけどな」 | ||
21 | 春希 | Haruki | 「じゃあ『貴重な時間を浪費』に言い直す。 …飯は試験終わってからに取っとくわ」 | ||
22 | 武也 | Takeya | 「土日空いてんだから今日くらいいいだろ。 軽く飲まね?」 | ||
23 | 春希 | Haruki | 「俺はどっちかって言うと来週からが本命なんだよ。 まだ9科目残ってるし。月曜なんか3科目だぞ」 | ||
24 | 武也 | Takeya | 「…お前、もうとっくに卒業できる単位数揃えてるだろ。 後は趣味の世界だよな、それ」 | ||
25 | 春希 | Haruki | 「何とでも言え。 とにかく今から月曜の朝までずっと勉強。 でなけりゃ各方面に申し訳が立たん」 | ||
26 | …特に、今週末バイトに来ないと知って、 思いっきり声のトーンを落とした後、 慌てて必死に明るく振舞った彼女とかに… | ||||
27 | …そうだ。 週末、グッディーズで勉強しようか。 帰り道だけ、ほんの少し足を伸ばして電車を使おうか。 | ||||
28 | そしたら彼女は 『店内は勉強する場所じゃありません』 なんて、嬉しそうに説教してくれるだろうか… | ||||
29 | 武也 | Takeya | 「あと一週間かぁ… 早く終わんねぇかなぁ」 | ||
30 | 春希 | Haruki | 「…そうだな」 | ||
31 | そういえば昨夜は、本来電話が掛かってくるべき時間に 俺が話し中だったせいか、結局、着信画面に 『杉浦小春』という文字列が表示されることはなかった。 | ||||
32 | 待つのに疲れて寝てしまったのか、 毎晩電話するのに飽きてしまったのか… | ||||
33 | それとも、俺の声を聞かなくても済むくらい、 学校で楽しいことでもあったのか… | ||||
34 | まぁ、どれでもいいか。 その逆でさえなければ、なんでも… | ||||
35 | 武也 | Takeya | 「そいやさ、お前… 来週の雪菜ちゃんとこのパーティは行くのか?」 | ||
36 | 春希 | Haruki | 「…お前んとこにも誘い来たのか?」 | ||
37 | 武也 | Takeya | 「二人っきりが良かったか?」 | ||
38 | 春希 | Haruki | 「何言ってんだ… もともと家族が一緒だろ」 | ||
39 | 武也 | Takeya | 「『お嬢さんを俺にください』を やるつもりだったのかなって」 | ||
40 | 春希 | Haruki | 「馬鹿なこと………言うな」 | ||
41 | ついさっきまで思い浮かべていたことと、 武也との会話の内容があまりに噛み合わず、 少しだけ頭がふらついた。 | ||||
42 | 武也 | Takeya | 「俺と依緒もお邪魔させてもらうことになってる。 何しろ雪菜ちゃんの手料理だぜ? …主賓がケーキ焼く誕生パーティってのもなんだけど」 | ||
43 | 春希 | Haruki | 「そ…っか」 | ||
44 | 武也 | Takeya | 「来るよな? 春希。 断る理由ないだろ? 何しろ、これで本当にただのホームパーティだ」 | ||
45 | 春希 | Haruki | 「武也…?」 | ||
46 | それは、誰が考えたのかわからないけれど、 …多分、雪菜じゃないことだけはわかるけれど。 | ||||
47 | 俺がすごく乗りやすく、 そして、とても断りにくいイベントになっていた。 | ||||
48 | 武也 | Takeya | 「旅行の相談とかもしたいしな。 お前、予定がないとすぐバイト入れちまうから」 | ||
49 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
50 | 武也 | Takeya | 「楽しみだな、春休み。 四年になったら遊ぶ暇なんかないだろうし、 今のうちに遊び溜めしとこうぜ?」 | ||
51 | 春希 | Haruki | 「春休み…か」 | ||
52 | 試験が終わったら。 三年生が終わったら。 | ||||
53 | 冬が、終わったら… | ||||
54 | 俺は、どこに行き、 誰に気持ちを伝えるんだろう。 | ||||
55 | …誰を傷つけて、 何を壊してしまうんだろう。 | ||||
56 | 武也 | Takeya | 「え…」 | ||
57 | 春希 | Haruki | 「武也?」 | ||
58 | 俺が、しばらく下を向いて考え事にふけっていたら、 いつの間にか武也を追い抜いてしまっていた。 | ||||
59 | というか、武也が突然立ち止まり、 呆然と正門の方向を見て固まっていたという方が… | ||||
60 | 春希 | Haruki | 「なんだよ武也? 一体どうし…」 | ||
61 | 武也の視線を追った瞬間… 俺も同じ表情を作ってしまっていた。 | ||||
62 | それだけじゃない。 その視線の先にいた人物も… | ||||
63 | こちらを呆然と見つめ、 その後、急に落ち着きをなくしたように周囲を見回し、 そして、泣きそうな顔を作る。 | ||||
64 | 遠くからでもわかる、焦燥、悲壮、戸惑い。 そしてその表情が、俺の顔にも移っていくのがわかる。 | ||||
65 | どうして、ここに… | ||||
66 | 春希 | Haruki | 「こは…」 | ||
67 | 武也 | Takeya | 「よ~小春ちゃんじゃん! え~なになに? 俺に会いに来てくれたわけ~?」 | ||
68 | 春希 | Haruki | 「………ぁ」 | ||
69 | 先に発見した分、 武也の切り替えの方が一瞬だけ早かった。 | ||||
70 | それは、良かったのか悪かったのか、 結果的に俺の致命的なミスを覆い隠してくれてもくれた。 | ||||
71 | 武也 | Takeya | 「こ~んなとこで寒かったでしょ。 なに、電話くれればすぐ迎えに行ったのに~」 | ||
72 | 小春 | Koharu | 「あ、あ、あの…っ」 | ||
73 | 本当だよ。 電話くれれば、すぐに… | ||||
74 | こんな目立つところで武也に見とがめられるより、 よっぽど上手い方法なんかいくらでも考えついたのに。 | ||||
75 | 武也 | Takeya | 「でもここで会うの久しぶりだよね~。 最初ほら、すっごい勢いでこっち睨んでてさぁ」 | ||
76 | 小春 | Koharu | 「ち、違うんです。その…違うんですよ!」 | ||
77 | 武也の言葉に必死に応えながら、 目が必死に俺に訴えてる。 | ||||
78 | 内容は、多分口で言ってるのと同じ。 『違うんです』 『こんなつもりじゃ、なかったんです』 | ||||
79 | ただ、口に出しているものとは、 その言葉の持つ意味が全然違うだけ… | ||||
80 | 武也 | Takeya | 「俺らに用事じゃなかったの?」 | ||
81 | 小春 | Koharu | 「だから、用なんて何もないんです。 ただその、気がついたらこんなところに…」 | ||
82 | 武也がいつの間にか選択肢に俺を取り込み、 どれだけ上手く誘導しても、 今の小春は、何も読むことができない。 | ||||
83 | 武也 | Takeya | 「誰か別の人でも待ってる?」 | ||
84 | 小春 | Koharu | 「…ないです。ごめんなさい」 | ||
85 | 武也 | Takeya | 「いや、謝ることないけどさ。 むしろ俺たちとしては偶然でも嬉しいなって」 | ||
86 | 自分がしてしまった行動に、 何より一番、自分自身がついていけてない… | ||||
87 | そんな感じだった。 | ||||
88 | 武也 | Takeya | 「そうだ、用がないんなら小春ちゃんも一緒に来ない? 俺たち、今から晩ご飯食べに行くとこだったんだ。 試験が折り返し地点に来た打ち上げも兼ねて」 | ||
89 | 小春 | Koharu | 「…いえ、いいです。ごめんなさい。 本当に、何の用もなかったんですから」 | ||
90 | 『そんな約束もしてないし、 折り返し地点に来たくらいで浮かれる訳にもいかないの』 | ||||
91 | …なんて、いつもなら、 説教臭い態度で突っ込みを入れなくちゃならないのに。 | ||||
92 | 武也 | Takeya | 「用事ないんならいいじゃん。 男二人だけが嫌なら依緒も呼ぶからさ?」 | ||
93 | 『だから俺はそんな約束…』 | ||||
94 | 小春 | Koharu | 「いえ………帰ります」 | ||
95 | 武也 | Takeya | 「…そう? 残念だなぁ、せっかく明日休みだから、 ゆっくり遊べるのに」 | ||
96 | 小春 | Koharu | 「先輩たち、試験期間中じゃないですか。 ゆっくり遊んでたら、駄目じゃないですか…」 | ||
97 | 武也 | Takeya | 「…痛いとこ突かないでよ。 さっき春希に同じこと言われたばかりだ」 | ||
98 | 小春 | Koharu | 「そうですよ。 暇なんか、ないんですよ………」 | ||
99 | そして小春は俯き、言葉を失っていく。 | ||||
100 | まるで、自分の口から出た言葉に、 酷く傷ついたみたいに… | ||||
101 | 小春 | Koharu | 「さよなら。 お疲れさまでした」 | ||
102 | 武也 | Takeya | 「そう? またね。 試験終わったらお店の方行くから」 | ||
103 | 小春 | Koharu | 「お待ちしてます。 それじゃ…」 | ||
104 | 春希 | Haruki | 「あ! ごめん、すっかり忘れてた!」 | ||
105 | 小春 | Koharu | 「え…」 | ||
106 | 武也 | Takeya | 「春希?」 | ||
107 | 駄目だ、これは… 辻褄を、合わせないと。 | ||||
108 | 春希 | Haruki | 「悪い! 完全に俺のチョンボ。 彼女、本当は俺と待ち合わせだったんだ」 | ||
109 | 武也 | Takeya | 「春希…?」 | ||
110 | 小春の態度とか、今ここにいる事実とか、 そして、今の彼女の感情への対応とか。 | ||||
111 | 小春 | Koharu | 「ち、違います! わたし、先輩を待ってなんか…っ!」 | ||
112 | 武也 | Takeya | 「…小春ちゃん?」 | ||
113 | 春希 | Haruki | 「確かに大遅刻した俺が悪いんだけど、 そうやっていつまでもむくれないでくれ…」 | ||
114 | 小春 | Koharu | 「せ、先輩…?」 | ||
115 | …午前中の試験でオーバーヒートしたはずの俺の頭が、 一瞬で冷たさを取り戻していく。 | ||||
116 | 春希 | Haruki | 「先週のバイトの時約束したんだよ… ウチのキャンパスを案内するって」 | ||
117 | 今の事態を受け、自分の中で優先度を並べ直し、 一番最適な『シナリオ』を組み上げていく。 | ||||
118 | 春希 | Haruki | 「先月、孝宏君を案内したことを話してたら、 自分も見てみたいって、そういう流れになってさ…」 | ||
119 | 小春がここで待っていたのは俺。 | ||||
120 | けれどそれは、 単にバイト先の先輩と進学先の先輩が 同一人物だったからに過ぎない。 | ||||
121 | ついでに『クラスメートの姉の彼氏』も… | ||||
122 | そして俺たちは、 『金曜日の放課後に正門前』という約束を交わし、 いつも通り、何事もなくバイト先で別れた。 | ||||
123 | そして今日、金曜日… | ||||
124 | 約束通り、時間通りにやってきた小春。 後輩との約束“程度”のことなんかすっかり忘れ、 武也と構内をうろついていた俺。 | ||||
125 | 当然、携帯番号なんか交換していないから、 連絡を取ることもできなかった。 | ||||
126 | そして一時間以上も待たされた挙げ句、 その当の約束の相手が、 慌てもせずにいけしゃあしゃあと歩いてきたから… | ||||
127 | 小春はすっかりブチ切れて、 俺との約束なんかなかったみたいに振舞っていた。 | ||||
128 | ……… | .........
| |||
129 | 春希 | Haruki | 「いや、本当にごめん! この通り!」 | ||
130 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
131 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
132 | 春希 | Haruki | 「少し遅くなったけど、 今からでも案内させてくれないかな? …晩飯おごるから。学食だけど」 | ||
133 | 小春 | Koharu | 「え…えと…」 | ||
134 | 小春の目が、泳いでる。 | ||||
135 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
136 | そして武也の目は… 疑惑の色すら浮かべていない。 | ||||
137 | 疑っているとかそういうレベルを通り越して、 嘘だってことを確信してる、強い光。 | ||||
138 | 春希 | Haruki | 「行こう。 …武也、そういう訳で、悪いけど」 | ||
139 | 武也 | Takeya | 「春希…」 | ||
140 | けど今は、そんなことに怯む訳にはいかない。 これを事実として、突き進むしかない。 | ||||
141 | 春希 | Haruki | 「さ、ほら、行くよ」 | ||
142 | 小春 | Koharu | 「先輩…」 | ||
143 | 春希 | Haruki | 「じゃあな武也。 また電話するから」 | ||
144 | 武也 | Takeya | 「なぁ春希… 来週のパーティ…ちゃんと来いよ?」 | ||
145 | 武也の、なんだか切なそうな声にも、 俺はもう振り返ることができずに、 ただ軽く手を上げて応える。 | ||||
146 | そのまま小春の背中を押すようにして、 来た方向と逆に…大学の中へと歩いていく。 | ||||
147 | 友達に、背を向けて。 ただひたすら、先の見えない闇の中にまっすぐ。 | ||||
148 | だって… 今ここで、絶対に小春を一人にしちゃいけない。 | ||||
149 | ただ、その直感だけは信じられたから。 | ||||
150 | ……… | .........
| |||
151 | 小春 | Koharu | 「先輩って、時々怖いです…」 | ||
152 | 春希 | Haruki | 「どこが?」 | ||
153 | 小春 | Koharu | 「いつもは馬鹿がつくくらい正直なのに、 嘘をつくときは容赦ないから」 | ||
154 | 春希 | Haruki | 「…そうかな」 | ||
155 | 小春 | Koharu | 「最初は、ほら… 小木曽先輩のことを一緒に探してた時。 お店の人とか、幹事の人を脅して…」 | ||
156 | 春希 | Haruki | 「あったなぁ…そんなこと」 | ||
157 | 俺が小春の、お節介という名の献身を、 初めて自分の身に受けた日のことだ… | ||||
158 | 小春 | Koharu | 「よくあんな口から出任せが次から次へと出ますね。 …友達相手に。 …全部わたしのせいなのに」 | ||
159 | 春希 | Haruki | 「酷いよな、俺…」 | ||
160 | こういう時に、痛感してしまう… 俺は、とんでもない嘘つきなんだって。 | ||||
161 | 大切な人には誠実でいたいとか言いながら、 その大切な人を平気で欺く詐欺師なんだって。 | ||||
162 | 小春 | Koharu | 「ううん、酷いのはわたしです。 …ごめんなさい」 | ||
163 | 春希 | Haruki | 「…何が?」 | ||
164 | 小春 | Koharu | 「ごめんなさぁい…っ」 | ||
165 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
166 | 参ったよなぁ… | ||||
167 | 小春 | Koharu | 「待つって約束だったのに…ごめんなさい」 | ||
168 | テスト期間中とは言え、夕方とは言え… | ||||
169 | 小春 | Koharu | 「先輩の試験が終わるまで我慢するって… 自分で言ったのに、全然、守れなくなっちゃって」 | ||
170 | まだ普通に目の前を何人も歩いてるんだけどな。 | ||||
171 | 小春 | Koharu | 「気がついたらあそこにいたんです… 本当に、そんなつもり全然なかったんです」 | ||
172 | 春希 | Haruki | 「わかってるって…」 | ||
173 | 小春 | Koharu | 「ううん、わかってないです先輩。 だって、わたし今、嘘ついてる」 | ||
174 | 春希 | Haruki | 「小春…」 | ||
175 | 小春 | Koharu | 「あんなところで待ってたら、みんなに見られる。 飯塚先輩にも、水沢先輩にも… もしかしたら、小木曽先輩にだって」 | ||
176 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
177 | 小春 | Koharu | 「そのこと、気づいてない訳じゃなかった。 気づいてて、それでも来たんです。 …余計に、タチが悪いんです」 | ||
178 | 春希 | Haruki | 「それは、嘘じゃないって」 | ||
179 | 小春 | Koharu | 「嘘ですよ… 酷い裏切りです。 それも、先輩に対しての」 | ||
180 | それは嘘じゃなくて… ただ、判断できなかっただけ。 | ||||
181 | 予測できる危険よりも、 ほんの少し、欲望の方が勝ってしまっただけ。 | ||||
182 | 春希 | Haruki | 「な、小春」 | ||
183 | 小春 | Koharu | 「は、はい」 | ||
184 | そんな小春の心の内を、 全部知ってる訳じゃ全然ないんだけど。 | ||||
185 | 春希 | Haruki | 「今から、どこ行こうか?」 | ||
186 | 小春 | Koharu | 「先輩…」 | ||
187 | 春希 | Haruki | 「嘘から出た誠で、キャンパス案内してもいいし、 約束通り、学食で晩飯おごってもいい。 …いや、ファミレス程度なら外に出ても構わない」 | ||
188 | 小春 | Koharu | 「先輩ぃ…っ」 | ||
189 | 春希 | Haruki | 「だからぁ、泣くなって。 …せめて、二人きり以外の時は」 | ||
190 | 参ったよなぁ… | ||||
191 | 小春 | Koharu | 「っ…ぃ、ごめん、なさい。 すいません」 | ||
192 | テスト期間中とは言え、夕方とは言え… | ||||
193 | 春希 | Haruki | 「ほら、もっとこっち寄っていいから」 | ||
194 | まだ普通に目の前を何人も歩いてるんだけどな。 | ||||
195 | 小春 | Koharu | 「は…ぁぃ。 失礼します…っ」 | ||
196 | そんな衆人環視の中で、 なんで俺、付属の制服姿の女の子の頭を撫でてるんだ… | ||||
197 | 肩まで、抱きながら。 | ||||
198 | 春希 | Haruki | 「…少し落ち着くまで、ここにいるか?」 | ||
199 | 小春 | Koharu | 「ぃ、ぃぇ…大丈夫ですから。 これ以上ここにいると、先輩の迷惑になるし」 | ||
200 | なんて言いながらも、 肩に乗せた頭をどけるようなことはしないけど… | ||||
201 | 春希 | Haruki | 「じゃ…どこに行く? どこでも案内するぞ」 | ||
202 | 小春 | Koharu | 「本当に、どこでもいいんですか?」 | ||
203 | 春希 | Haruki | 「ま、近場なら」 | ||
204 | 小春 | Koharu | 「…近いです。 歩いて行けるはずです」 | ||
205 | 春希 | Haruki | 「そっか… 行き先決まってるんなら、そろそろ行こうか」 | ||
206 | 小春 | Koharu | 「あの…ごめんなさい。 最初に謝っておきます」 | ||
207 | 春希 | Haruki | 「だからもう今までのことは…」 | ||
208 | 小春 | Koharu | 「今までのことじゃなくて… たった今、先輩を騙したことに」 | ||
209 | 春希 | Haruki | 「…遠いの?」 | ||
210 | 小春 | Koharu | 「いえ、そっちじゃなくて…行き先の方」 | ||
211 | 春希 | Haruki | 「…?」 | ||
212 | と、小春は、俺の肩に乗せていた頭をゆっくり持ち上げる。 | ||||
213 | そして、誰にも話の内容が漏れないよう、 俺の耳に息が届くくらい、口を近づけた… | ||||
214 | 小春 | Koharu | 「………先輩の部屋」 | ||
215 | ……… | .........
| |||
216 | …… | ......
| |||
217 | … | ...
| |||
218 | 小春 | Koharu | 「お、思った通り、綺麗に片づいてますね」 | ||
219 | 春希 | Haruki | 「まぁ、最低でも週に二回は掃除してるし」 | ||
220 | 小春 | Koharu | 「わ、でも食材は結構入ってる。 一人暮らしの男の人って ビールばっかりって聞いてたけど」 | ||
221 | 春希 | Haruki | 「誰に聞いたんだよ…」 | ||
222 | 小春 | Koharu | 「わ、わ、お風呂場もちゃんと洗ってある。 しかも水洗いじゃなくてちゃんと洗剤使って」 | ||
223 | 春希 | Haruki | 「そこは週一回くらいだけど…小春」 | ||
224 | 小春 | Koharu | 「わ、わ、わ、結構夜景綺麗。 あ、でもここ寒い…それにエアコンの室外機の音が…」 | ||
225 | 春希 | Haruki | 「小春!」 | ||
226 | 小春 | Koharu | 「っ!?」 | ||
227 | 春希 | Haruki | 「…落ち着けって。 それに小春の言う通り、寒いから閉めて」 | ||
228 | 小春 | Koharu | 「………はい」 | ||
229 | …寒い寒いと言いながら、 額に汗がびっしょり。 | ||||
230 | 春希 | Haruki | 「いつまでも立ってないで。 まず座って」 | ||
231 | なんて予想通りにガチガチに緊張してくれるんだ… そんなことされたら、俺まで緊張してしまう。 | ||||
232 | 小春 | Koharu | 「お…お邪魔、します」 | ||
233 | 今ごろになって、普段は絶対忘れない挨拶を まだしていないことを思い出し、またしても赤面… | ||||
234 | 春希 | Haruki | 「いや、そこは…」 | ||
235 | 小春 | Koharu | 「え…あ、ああっ!?」 | ||
236 | …それだけならまだしも、 俺が用意したテーブルの前のクッションにも気づかず、 いきなりベッドに腰掛けてしまうという大チョンボ。 | ||||
237 | 小春 | Koharu | 「~っ」 | ||
238 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
239 | 耳まで真っ赤にして俯く小春に、 今度はこっちまで恥ずかしくなってしまう。 | ||||
240 | 小春 | Koharu | 「あ、あの、先輩…」 | ||
241 | 春希 | Haruki | 「な、なんだよ」 | ||
242 | 小春 | Koharu | 「なに、しましょう?」 | ||
243 | 春希 | Haruki | 「な、なにって…」 | ||
244 | これじゃまるで中学生のカップルだ… | ||||
245 | 初めての時だって、 こんな醜態をさらした記憶はないんだけど。 | ||||
246 | 小春 | Koharu | 「先輩の…好きなことで、いいんですけど」 | ||
247 | って、なんで今を、 『初めての時』と比較するんだよ、俺… | ||||
248 | あのときと同じことを求めてるのか? 今。 | ||||
249 | ………だとしても。 | ||||
250 | 春希 | Haruki | 「…一緒に飯でも作るか? まだ食べてないし」 | ||
251 | 小春 | Koharu | 「え…」 | ||
252 | だとしても、あのときとは違う。 | ||||
253 | 俺たちには、まだこの先がある。 | ||||
254 | 今日が明日に繋がり、 そして未来へと伸びていく可能性だって… | ||||
255 | 春希 | Haruki | 「とりあえず、 いつもカレー作れるくらいの材料なら揃ってるから。 小春、包丁使える?」 | ||
256 | 小春 | Koharu | 「…駄目です」 | ||
257 | 春希 | Haruki | 「あ、使ったことないか… 結構やってそうなイメージあったんだけど」 | ||
258 | 小春 | Koharu | 「いえ、普段は使えますが、今日は嫌です」 | ||
259 | 春希 | Haruki | 「なんで?」 | ||
260 | 小春 | Koharu | 「わたしが料理に集中しちゃって、 先輩を見ていられなくなるから」 | ||
261 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
262 | 小春 | Koharu | 「そんなの嫌です… だって時間がないのに。 ただでさえ、先輩の貴重な時間削ってるのに」 | ||
263 | けれど小春は、今日限定の二人きりで過ごせる短い時間に、 無駄な思考を介入させるつもりは一切ないみたいだった。 | ||||
264 | 春希 | Haruki | 「…ジャガイモの皮剥きながらだって、 話はできるだろ?」 | ||
265 | 小春 | Koharu | 「わたし、一つのことにしか集中できないんです。 絶対に思いっきり無言になっちゃいます」 | ||
266 | それは…思いっきりありそうだ。 このコの場合。 | ||||
267 | 小春 | Koharu | 「だからわたし… 今日は、先輩に集中してる必要があるんです。 あ、先輩は自由にしていただいても構いません」 | ||
268 | 春希 | Haruki | 「それって…どうすればいいんだ?」 | ||
269 | 小春 | Koharu | 「ええと…試験勉強しててもいいですよ」 | ||
270 | 春希 | Haruki | 「俺が勉強してる間、小春は?」 | ||
271 | 小春 | Koharu | 「ずっとその横顔見てます」 | ||
272 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
273 | 小春 | Koharu | 「あ、思ったよりいいですねそれ。 そしたらわたし、先輩にそれほど迷惑かけなくても…」 | ||
274 | 春希 | Haruki | 「そんなことできるか!」 | ||
275 | 小春 | Koharu | 「う…」 | ||
276 | 何が『先輩の好きなこと』だ… | ||||
277 | さっきから全然、俺のやりたい通りに やらせてくれないじゃないか。 | ||||
278 | やっぱお互い仕切り屋だと、 この辺はどうしてもぶつかり合ってしまうな… | ||||
279 | 春希 | Haruki | 「小春が俺に集中するなら、 俺も小春に集中するしかない。 …でないと気になってしょうがないだろ」 | ||
280 | 小春 | Koharu | 「わたしに…集中するんですか? 先輩も?」 | ||
281 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
282 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
283 | 春希 | Haruki | 「小春…」 | ||
284 | 小春 | Koharu | 「んっ…」 | ||
285 | お互いがお互いを見つめることに集中してしまったら、 二人の距離がなくなってしまうのに、時間はかからない。 | ||||
286 | 小春 | Koharu | 「ん、んぅ…んぷ…は、あむ…んっ」 | ||
287 | 小春が目を閉じたのが先か、 俺が唇を触れたのが先か… | ||||
288 | 小春 | Koharu | 「は、はぁ…あ、ん、ちゅ…はぁぁ… ん、んむぅぅ…んぅぅ…は、ぁぁ」 | ||
289 | 俺が舌を差し入れたのが先か、 小春が絡めてきたのが先か… | ||||
290 | 小春 | Koharu | 「んぷっ…は、はぁ、はぁ、はぁぁ… はぁ、あ…先輩…春希、せんぱぁい…っ」 | ||
291 | 春希 | Haruki | 「小春…」 | ||
292 | 小春の唇が言葉を紡ぐたび、 俺の唇と繋がった銀色の糸がゆらゆら揺れる。 | ||||
293 | 甘い吐息が、顔にかかる。 潤んだ瞳に、俺の獣の顔が映る。 | ||||
294 | 小春 | Koharu | 「もっと…もっとしてください。 今度は、今の倍の長さで。 で、その次は、さらにその倍の長さで…」 | ||
295 | 春希 | Haruki | 「小春…」 | ||
296 | 小春 | Koharu | 「本当はね、これだけが目的だったんです… 外じゃ、集中できないから」 | ||
297 | 『一つのことにしか集中できない』から、 『一つのことにだけ集中できる』環境を求めた。 | ||||
298 | 小春の考え方は間違ってない、けど… | ||||
299 | 春希 | Haruki | 「その前に、一つ言っておくことがある」 | ||
300 | 小春 | Koharu | 「…なんです?」 | ||
301 | 春希 | Haruki | 「これ以上やると、ここで終われなくなる」 | ||
302 | 小春 | Koharu | 「…そうですか」 | ||
303 | 目を見開いたり、戸惑ったり、 迷いを見せたりはしなかった。 | ||||
304 | ベッドの上に、二人腰掛けて、両肩に手を置いて。 …こんな、いつでも押し倒せてしまう体勢で。 | ||||
305 | 小春はまだ、俺の瞳に“集中”してる。 | ||||
306 | 春希 | Haruki | 「小春は…どうなんだ? 俺は、どうしたらいい?」 | ||
307 | 小春 | Koharu | 「わたしに選択権を与えるんですか?」 | ||
308 | 春希 | Haruki | 「心の準備ができてないなら、その…」 | ||
309 | 小春 | Koharu | 「…そうやって女の子に選択させるの、 男のひととしてどうかと思います」 | ||
310 | 春希 | Haruki | 「けど、もし本当はそんな気なんかなかったら…」 | ||
311 | 小春 | Koharu | 「先輩がしたいようにすればいいと思います。 わたしは…後悔なんかしませんよ?」 | ||
312 | こんな時に正論が返ってくるところが、 このコの土壇場での強さなのかもしれないな。 | ||||
313 | 春希 | Haruki | 「俺は… ごめん。正直迷ってる」 | ||
314 | そしてこれが、俺の土壇場での弱さ… 正論ではなく、ただの正直。 | ||||
315 | 小春 | Koharu | 「やっぱり、小木曽先輩のこと…」 | ||
316 | 春希 | Haruki | 「それはずっと抱えてる。 今までも、そして今からも」 | ||
317 | 小春 | Koharu | 「っ…」 | ||
318 | 春希 | Haruki | 「だから今は、雪菜のことじゃない」 | ||
319 | 小春 | Koharu | 「…? じゃあ、なんなんです?」 | ||
320 | 春希 | Haruki | 「どうすれば小春が一番安心できるのか… そこがわからないから、迷ってる」 | ||
321 | 小春 | Koharu | 「わたし…?」 | ||
322 | 春希 | Haruki | 「もっと近づいて抱きしめるのがいいのか、 今と同じ距離で見つめ続けるのがいいのか」 | ||
323 | それとも、お互いの問題が解決するまで 本当はもう少し距離を置くべきなのか… | ||||
324 | 春希 | Haruki | 「今の俺には判断材料が足りないから」 | ||
325 | 小春は、話さないから。 | ||||
326 | 自分がどれだけ辛くて、苦しくて、 そして、どんな助けを求めてるのかを。 | ||||
327 | 今日みたいに、 こうして謎かけみたいな態度でしか示さないから。 | ||||
328 | 小春 | Koharu | 「先輩は…自分がどうしたいってのはないんですか?」 | ||
329 | 春希 | Haruki | 「…あるよ」 | ||
330 | 小春 | Koharu | 「わたしの身体、欲しいって思わないんですか? そりゃ確かに胸は小さいけど… 抱いても、面白くないかもしれないけど…」 | ||
331 | 春希 | Haruki | 「欲しいよ… 小春の身体、可愛いし、 色んなところ触りたいって思う」 | ||
332 | 小春 | Koharu | 「だったら!」 | ||
333 | 春希 | Haruki | 「けど今、俺がいちばんしたいのは、 小春が一番安心できるようなことだから」 | ||
334 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
335 | 春希 | Haruki | 「…やっぱ、優柔不断だって思うか?」 | ||
336 | 小春 | Koharu | 「じゃあわたしは… 先輩がもっと元気になるようなことをしたいです」 | ||
337 | 春希 | Haruki | 「小春が笑顔を見せてくれれば、俺は元気になれる」 | ||
338 | 小春 | Koharu | 「先輩が元気になれば、わたしは笑顔を見せます」 | ||
339 | 春希 | Haruki | 「だから俺は小春が!」 | ||
340 | 小春 | Koharu | 「わたしは先輩が!」 | ||
341 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
342 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
343 | お互い、顔を見合わせてふっと笑い合う。 | ||||
344 | けれど今度は、 小春は目を閉じたりしなかったし、 俺も、唇を重ねようとはしなかった。 | ||||
345 | 小春 | Koharu | 「いつまでこんなこと続けるんでしょうね」 | ||
346 | 春希 | Haruki | 「こんなことしてるうちに、 終電の時間になったりしてな」 | ||
347 | お互い、相手の強情さに呆れつつ、 お互いを思いやる気持ちを知り、 なんとなく板挟みになってるから。 | ||||
348 | 小春 | Koharu | 「じゃあ先輩…平等に行きましょうか?」 | ||
349 | 春希 | Haruki | 「どうやって?」 | ||
350 | 小春 | Koharu | 「いっせ~の、せっ、で」 | ||
351 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
352 | 小春 | Koharu | 「したいか、したくないか」 | ||
353 | 春希 | Haruki | 「本気か…?」 | ||
354 | 小春 | Koharu | 「いっせ~の」 | ||
355 | 春希 | Haruki | 「って、ちょっと待て! まだ決めてない!」 | ||
356 | 小春 | Koharu | 「じゃあ早く決めてください。 わたしはもう完全に決めてますから」 | ||
357 | 春希 | Haruki | 「こ、小春…」 | ||
358 | なんか目が据わってる… | ||||
359 | さっきまで、とろんとして滅茶苦茶色っぽかったのに、 今はもう、なんというかいつもの委員長だ。 | ||||
360 | 女って…一瞬でこんなに変わるものなのか。 本当に、奥が… | ||||
361 | 小春 | Koharu | 「そろそろいいですか?」 | ||
362 | 春希 | Haruki | 「待て! ちょっとの間だけ集中する!」 | ||
363 | 小春 | Koharu | 「………早くしてくださいよ」 | ||
364 | 奥が深い… | ||||
365 | ……… | .........
| |||
366 | 小春 | Koharu | 「じゃあ…行きますね」 | ||
367 | 春希 | Haruki | 「わかった…」 | ||
368 | それから小春の与えてくれた30秒は、 俺にとっては3秒にも満たなかった。 | ||||
369 | …まぁ、向こうが時間をサバ読んでた可能性もあるけど。 | ||||
370 | 小春 | Koharu | 「それじゃ… いっせ~の…」 | ||
371 | 春希 | Haruki | 「………っ」 | ||
372 | 小春 | Koharu | 「せっ!」 | ||
373 | 春希&小春 | Haruki & Koharu | 「したい! 小春が欲しい!」 「………」 | ||
374 | 春希 | Haruki | 「………え?」 | ||
375 | 小春 | Koharu | 「あは、あはは…」 | ||
376 | 春希 | Haruki | 「こ…小春っ!?」 | ||
377 | 小春 | Koharu | 「わたしもです、先輩! 先輩、春希先輩ぃっ!」 | ||
378 | 春希 | Haruki | 「だ、だ…騙したな!?」 | ||
379 | 小春 | Koharu | 「嬉しい…嬉しいです。 やっぱり先輩の方からハッキリ言って欲しかったもん!」 | ||
380 | 春希 | Haruki | 「う、嘘つき…この嘘つきめっ!」 | ||
381 | 小春 | Koharu | 「あはは…あははははっ」 | ||
382 | ベッドの上に、二人転がって、抱きあって。 …こんな、いつでも始まってしまいそうな体勢で。 | ||||
383 | 俺たちは、始まる。 | ||||
384 | 『ごめん』 | ||||
385 | 小春 | Koharu | 「あ…お母さん? 連絡遅くなってごめんなさい」 | ||
386 | 『この前誘ってくれたパーティの件だけど、 ごめん、行けなくなった』 | ||||
387 | 小春 | Koharu | 「今、バイトの先輩の家。 …中川さんって、短大生の人」 | ||
388 | 『その週末、バイト先の方が人数足りないらしくて、 連休の三日間とも全部出てって泣きつかれた』 | ||||
389 | 小春 | Koharu | 「学校帰りにばったり会っちゃって… 今までずっと喋ってたらこんな時間になってて…」 | ||
390 | 『今までも世話になってるところだし、 正直、バイトながら結構責任ある立場なんで、 どうしても断れそうにない』 | ||||
391 | 小春 | Koharu | 「それでね、今から夕食ご馳走してくれるって… ごめんなさい。そっち、もう作っちゃってた?」 | ||
392 | 『本当にごめん。 近いうちに埋め合わせするから。 話したいこともあるし』 | ||||
393 | 小春 | Koharu | 「うん、うん…そう。 それじゃ、ご馳走になってもいいんだね?」 | ||
394 | 『じゃあ、みんなにもよろしく言っておいてください』 | ||||
395 | 小春 | Koharu | 「………え?」 | ||
396 | 小春 | Koharu | 「あ、ああ…うん、そうだね。 ええと、帰る時間は…」 | ||
397 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
398 | 小春 | Koharu | 「ひゃんっ」 | ||
399 | 小春 | Koharu | 「い、今の何でもない! ちょっと、テレビで怖いシーンがあって」 | ||
400 | 小春 | Koharu | 「う、うん、ええとね…ええと…」 | ||
401 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
402 | 小春 | Koharu | 「………泊めてくれるって言ってるんだけど。 もう遅いし、帰り怖いから、いいかな?」 | ||
403 | 小春 | Koharu | 「んんっ! あ、んむっ…は、あ、あ…んぅぅ…」 | ||
404 | 小春 | Koharu | 「せ、せんぱ…はぁんっ… ちゅぷ…ん、んぷ…ぷぁぁ…は、はぁ、ぁぁぁ…」 | ||
405 | 小春 | Koharu | 「はぁ、はぁ、はぁ…あ、んっ…」 | ||
406 | ……… | .........
| |||
407 | 小春 | Koharu | 「うわぁ…まだ前髪にこびりついてる。 もう一度洗い直さないと」 | ||
408 | 春希 | Haruki | 「…ごめん」 | ||
409 | 小春 | Koharu | 「いたた… なかにお湯が染みてきて、ひりひりするぅ」 | ||
410 | 春希 | Haruki | 「……重ね重ね」 | ||
411 | 扉一枚隔てられた浴室から、 俺の身勝手な下半身をちくちくと責める言葉が 漏れ聞こえてくる。 | ||||
412 | 小春 | Koharu | 「でも、何だか凄いなぁ、こういうの」 | ||
413 | 春希 | Haruki | 「こういうのって…?」 | ||
414 | 小春 | Koharu | 「男の人に自分の下着まで手洗いしてもらってて、 自分はのんびりとお風呂に入ってるって状況ですよ」 | ||
415 | 春希 | Haruki | 「そりゃ…全部俺が汚した訳だし」 | ||
416 | 小春 | Koharu | 「そうですね。わたし、先輩に汚されてしまいました。 心も身体も、ついでに制服からショーツまで全部」 | ||
417 | 春希 | Haruki | 「………怒ってる?」 | ||
418 | 小春 | Koharu | 「いいえ、全然。 ここまで責任取ってもらって、 怒るわけにいかないですよ」 | ||
419 | 春希 | Haruki | 「…なんとか明日までには乾かすから」 | ||
420 | 責任…取ったっけ? それって、どんな形で? | ||||
421 | 小春 | Koharu | 「結局、泊まらざるを得なくなりましたね。 先輩の言う通り、家に電話しておいてよかった」 | ||
422 | 春希 | Haruki | 「はは…」 | ||
423 | 相変わらず言葉の真意はきつかったけど、 その声の柔らかさが、俺を安心させてくれる。 | ||||
424 | ……… | .........
| |||
425 | 終わった後、慌てて浴槽に湯を張り、 ベッドに仰向けで呆然としたままの小春を放り込んだ。 | ||||
426 | 浴室からちゃんとシャワーを使う音が聞こえてきたのを 確認してから、俺が脱がせた小春の服を拾い集め、 洗面所に持ち込み、ぬるま湯と液体洗剤で押し洗い。 | ||||
427 | …しようとした時に、 ようやく自分が全裸だったと言うことに気がついた。 | ||||
428 | 小春 | Koharu | 「ねぇ、先輩」 | ||
429 | 春希 | Haruki | 「ん~?」 | ||
430 | 小春 | Koharu | 「先輩って結婚しても 家事とかきっちりやりそうですよね」 | ||
431 | 春希 | Haruki | 「あ、あ~っ!」 | ||
432 | 床が少し濡れた… | ||||
433 | 小春 | Koharu | 「ものぐさな女の人はやめといた方がいいですよ? 家事も仕事も大忙しで、過労で倒れちゃいそう」 | ||
434 | 春希 | Haruki | 「な、な、な…何の話をしてる!?」 | ||
435 | 小春 | Koharu | 「世間話ですよ? 何か妙な誤解してません? 先輩」 | ||
436 | 春希 | Haruki | 「いや、別に? 一般的な解釈しかしてないぞ?」 | ||
437 | …誤解だって思っていいんだな? | ||||
438 | 小春 | Koharu | 「先輩は共働きはアリな方ですか? それとも、奥さんには家にいて欲しい?」 | ||
439 | …世間話にしては、 さっきから答えにくい質問ばかりのような気もするけど。 | ||||
440 | 春希 | Haruki | 「…奥さんがたくさん稼いで、 俺が専業主夫するって選択肢もあるぞ?」 | ||
441 | 小春 | Koharu | 「先輩、仕事捨てられるかなぁ…」 | ||
442 | 春希 | Haruki | 「そんなの働いてみなければわかんないだろ。 俺、まだ学生だし」 | ||
443 | 小春 | Koharu | 「でも、今のバイト先での働きぶりとか見てると、 家でのんびりテレビ見ながら 奥さんの帰りを待ってる先輩って想像できない」 | ||
444 | 春希 | Haruki | 「…世の専業主婦を敵に回すなよ予備軍」 | ||
445 | そりゃ、俺だって想像できるわけがないけど。 | ||||
446 | 小春 | Koharu | 「先輩って、イメージ的には 『仕事と家庭、どっちを取る?』って聞かれたら、 平気で『どっちも』って答えそう」 | ||
447 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
448 | 反論のしようがない。 | ||||
449 | 小春 | Koharu | 「ね? だから早死にしないでね先輩… わたし、そんなの嫌ですからね?」 | ||
450 | なんで小春が嫌がるんだよ… | ||||
451 | 春希 | Haruki | 「その台詞、 そっくりそのまま小春に返してやるから」 | ||
452 | …なんて、言えるわけがない。 | ||||
453 | 小春 | Koharu | 「あは、そうですね… わたしも気をつけないと」 | ||
454 | だって俺、 小春に早死にされるなんて、絶対嫌だ。 | ||||
455 | 『もしお母さんが死んだらどうする?』と母親に聞かれ、 どうすることもできずに号泣してしまう幼児のように、 それは理不尽で理屈抜きの感情でしかないけれど… | ||||
456 | 小春 | Koharu | 「あ~…いい気持ち。 なんだかこのまま寝ちゃいそう」 | ||
457 | 春希 | Haruki | 「別に寝てもいいぞ。 ちゃんとベッドに運んどいてやるから」 | ||
458 | 小春 | Koharu | 「あはは…その時はよろしくお願いしま~す」 | ||
459 | 春希 | Haruki | 「お安い御用だ。 何しろ小春、軽いからなぁ」 | ||
460 | 小春 | Koharu | 「先輩はすっごく重かったですよ?」 | ||
461 | 春希 | Haruki | 「………誠に申し訳ない」 | ||
462 | 小春 | Koharu | 「あはは…あははははっ」 | ||
463 | でもよかった… 俺の判断は、間違ってなかった。 | ||||
464 | だって今、小春が笑ってくれている。 俺の側で、力を抜いて、笑顔を見せてくれている。 | ||||
465 | 今の俺にとって、 そのことに勝る安らぎは、この世に存在しない… | ||||
466 | ……… | .........
| |||
467 | …… | ......
| |||
468 | … | ...
| |||
469 | はずだったのに。 | ||||
470 | 小春 | Koharu | 「ぅ…ぅぅ…ぅぁぁぁぁ…っ」 | ||
471 | 春希 | Haruki | 「小春…おい、小春?」 | ||
472 | 小春 | Koharu | 「ううぅ…うああぁぁぁ… あ”~っ! いやああぁぁぁぁぁぁ~っ!」 | ||
473 | 春希 | Haruki | 「落ち着け! 大丈夫だから、ここは俺の部屋だから!」 | ||
474 | 小春 | Koharu | 「せ、先輩…先輩? い、いぅ…っ、う、う、いぅぃぃい…っ、 いぐっ、う、ぃぅぁぁああああ…っ」 | ||
475 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
476 | 小春 | Koharu | 「わあああああああ~っ! いあああぁぁっ、うぅぅぃぃ…う~っ!」 | ||
477 | どれだけ強く抱きしめても… 何度も『いいこいいこ』をしても… | ||||
478 | 小春 | Koharu | 「なんで、なんで… ふえええぇぇぇぇぇ~っ! いっ、いぅっ…う、う、あ…あぁぁ…っ」 | ||
479 | 一度、爆ぜてしまった感情は、 小春を激しく飲み込んでいった。 | ||||
480 | ……… | .........
| |||
481 | 『ここが一番安心できます』って… 俺の胸に顔を埋め、何度も息を吸い込んだ小春。 | ||||
482 | ほどいた髪を梳くように撫でていると、 本当に幸せそうなため息をついた小春。 | ||||
483 | 激しく抱いても、覚悟を見せても、 彼女の想いを受け入れても… | ||||
484 | 一度できてしまった深い傷が、 そんなに簡単に癒えるわけがなかった… | ||||
485 | ……… | .........
| |||
486 | …… | ......
| |||
487 | … | ...
| |||
488 | 小春 | Koharu | 「お邪魔しました」 | ||
489 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
490 | そして、夜が明けて… | ||||
491 | そこには、少しだけはれぼったい目をした、 けれど、ほぼ普段通りの小春がいた。 | ||||
492 | なんとか乾いた制服を身にまとい、 鞄を両手で持ち、ぺこりと頭を下げる。 | ||||
493 | 小春 | Koharu | 「昨夜はごめんなさい… 色々と迷惑をかけちゃって」 | ||
494 | 春希 | Haruki | 「そんなことは…」 | ||
495 | 小春 | Koharu | 「言うの忘れてた… わたし、暗くして寝るの全然ダメなんです」 | ||
496 | 嘘だ。 | ||||
497 | 小春 | Koharu | 「子供の頃から暗闇が苦手で、 ふとしたことでスイッチが入ると、 あんなふうになっちゃうんです」 | ||
498 | 絶対嘘だ。 | ||||
499 | 小春 | Koharu | 「…ただ、それだけのことです」 | ||
500 | そんなの、あからさまにバレてるのに、 それでも小春は、ただの恐がりで押し通す。 | ||||
501 | …昨日の俺みたいに。 | ||||
502 | 春希 | Haruki | 「もう少しゆっくりしてっても… 今日は休みなんだし」 | ||
503 | 小春 | Koharu | 「バイト入れてるから」 | ||
504 | 春希 | Haruki | 「まだ開店まで2時間以上ある。 ここからなら15分もあれば…」 | ||
505 | 小春 | Koharu | 「一度家に帰って私服に着替えてから行きます。 …洗いたての制服なんかでそのまま行っちゃったら、 中川さんになんて勘繰られるか」 | ||
506 | 春希 | Haruki | 「なら、家まで送…」 | ||
507 | 小春 | Koharu | 「ダメですよ。 試験中じゃないですか」 | ||
508 | 春希 | Haruki | 「小春…」 | ||
509 | 小春 | Koharu | 「もう、先輩甘いなぁ… やめてくださいそういうの。 わたし、どんどん弱くなっちゃいそう」 | ||
510 | 弱くなったのか、 もともと強くなんかなかったのか… | ||||
511 | 俺と知り合った頃は、強いコにしか見えなかった。 俺に介入しだした頃は、優しいコにも見えてきた。 | ||||
512 | そして、俺の側にいるようになってからは、 泣いてばかりだ。 | ||||
513 | 小春 | Koharu | 「試験頑張ってくださいね、先輩」 | ||
514 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
515 | 小春 | Koharu | 「わたし、次に先輩に会える日だけを指折り数えて、 明日からまた頑張っていきます」 | ||
516 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
517 | 小春 | Koharu | 「それじゃ…」 | ||
518 | 小春の、ソックスに包まれた足が、 小さな革靴に包まれる。 | ||||
519 | つま先を軽くトントンと床で叩き、かかとまで覆うと、 ゆっくりと背を向けて、ドアノブに手をかける。 | ||||
520 | 春希 | Haruki | 「小春…っ」 | ||
521 | 小春 | Koharu | 「…はい」 | ||
522 | 俺の呼びかけにも、 小春はノブを握り、後ろを向いたままで応えた。 | ||||
523 | 春希 | Haruki | 「こうなったこと…後悔してないか?」 | ||
524 | 小春 | Koharu | 「してません」 | ||
525 | 春希 | Haruki | 「俺と知り合わなければよかったって、 思ったことないか?」 | ||
526 | 小春 | Koharu | 「ありません」 | ||
527 | 春希 | Haruki | 「冬が来る前の、 矢田さんと仲の良かったあの日に帰りたいって…」 | ||
528 | 小春 | Koharu | 「思いません」 | ||
529 | 全部、即答だった。 | ||||
530 | 最後なんか、質問が終わるよりも前に 自分の気持ちをまっすぐぶつけてきた。 | ||||
531 | …後ろを向いていたから、 ドアにぶつかって、反射してから届いたけれど。 | ||||
532 | 小春 | Koharu | 「先輩は悲観的すぎます」 | ||
533 | そんなことを… 昨夜、一時間以上も泣きやめなかった少女が言い放つ。 | ||||
534 | 小春 | Koharu | 「こんな、胸が潰れるくらい嬉しい痛みを 知ってしまったら、もう元のわたしには戻れません。 …戻りたいとも思いません」 | ||
535 | 春希 | Haruki | 「小春…」 | ||
536 | 小春 | Koharu | 「世の中が何もかも、 このくらい思い通りに行けばいいのにってくらい、 今、素敵な恋をしてるんですよ? わたし」 | ||
537 | 『なんて恥ずかしいこと言うんだ…小春らしくもない』 | ||||
538 | …言えるわけ、ない。 絶対に、言いたくない。 | ||||
539 | 小春 | Koharu | 「わたしの望みが叶ったから、 先輩の望みは遠ざかっちゃったかもしれないですけどね」 | ||
540 | 春希 | Haruki | 「俺の望みは…昨夜叶ったよ」 | ||
541 | 小春 | Koharu | 「ありがとう、ございます…っ」 | ||
542 | そこまで強く思い込んでしまったからこそ、 小春は俺に、何も話してくれないんだろうか。 | ||||
543 | 好きだからこそ背負いたいのに、 好きだからこそ背負わせたくないんだろうか。 | ||||
544 | だとしたらそれは、 相手のためって言う、お互いのエゴのぶつかり合い。 | ||||
545 | 俺たちは、揃いも揃ってわがままで、強情で、 そして、相手のことを誰よりも想ってるって… | ||||
546 | 誰、よりも…? | ||||
547 | 小春 | Koharu | 「さよなら…」 | ||
548 | 春希 | Haruki | 「………小春っ!」 | ||
549 | 小春 | Koharu | 「あ…っ、 ん…んぅ…」 | ||
550 | ドアを開けたら、小春はすぐそこにいた。 …そんなのは、当たり前なんだけど。 | ||||
551 | 春希 | Haruki | 「ん…んむ…」 | ||
552 | 小春 | Koharu | 「ん、ん…ちゅ…ぷぁ…は、あ…」 | ||
553 | でも、捕まえられたのが嬉しくて、 その小さな身体を抱きしめ、強引に唇を奪った。 | ||||
554 | 小春 | Koharu | 「先輩… ここ、外…」 | ||
555 | 春希 | Haruki | 「行ってこい。 …気をつけてな」 | ||
556 | 小春 | Koharu | 「あ…」 | ||
557 | 小春の挨拶が気に入らなかったから。 | ||||
558 | たとえどんな意味だろうと、 『さよなら』を言って欲しくなかったから。 | ||||
559 | 小春 | Koharu | 「行って、きます?」 | ||
560 | 春希 | Haruki | 「ああ」 | ||
561 | 小春 | Koharu | 「行ってきます…」 | ||
562 | 春希 | Haruki | 「行ってらっしゃい」 | ||
563 | 小春 | Koharu | 「行ってきます!」 | ||
564 | 春希 | Haruki | 「またな、小春」 | ||
565 | 小春 | Koharu | 「はいっ!」 | ||
566 | 抱きしめたとき、 制服は少しだけ湿っていたけれど… | ||||
567 | それでも最後に見せてくれた小春の笑顔は、 冬の朝の突き刺すような寒さにも負けずに、 はっきりと輝いてくれた。 |
Script Chart
Edit this section For more instructions on how the script chart works, please click here.
If you are below the age of consent in your respective country, you are advised to not read any adult content (marked by cells with red backgrounds) where applicable. Otherwise, you are agreeing to the terms of our Disclaimer.
Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |