White Album 2/Script/2515
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Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 浜田 | Hamada | 「…と、まぁ、わかってるのはそれだけだ。 そんな感じでいいのか?」 | ||
2 | 春希 | Haruki | 「十分です。 ありがとうございました。じゃ…」 | ||
3 | 浜田 | Hamada | 「なぁ北原… 本当にもう続ける気ないのか? バイト」 | ||
4 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
5 | 浜田 | Hamada | 「今後は俺が面倒見てもいいんだぞ? 風岡がいなくなって、補充も四月まで来ないし、 ここでお前にも辞められるとダメージでかいんだがな」 | ||
6 | 春希 | Haruki | 「浜田さん…」 | ||
7 | 浜田 | Hamada | 「形式的な引き留めじゃないのはお前ならわかるよな? 正直、他の部の正社員よりも今は北原の方が…」 | ||
8 | 春希 | Haruki | 「そろそろ潮時だと思ってましたから。 卒論も始まるし、就職活動もあるし」 | ||
9 | 浜田 | Hamada | 「…そう、か」 | ||
10 | 春希 | Haruki | 「すいません。 皆さんが大変なときに力になれなくて…」 | ||
11 | 浜田 | Hamada | 「いや、大学生の本分はそっちだしな。 俺の方こそ無理言って悪かった」 | ||
12 | 春希 | Haruki | 「そう言っていただけると…」 | ||
13 | 浜田 | Hamada | 「それに北原は風岡がカスタマイズした作品だからなぁ。 俺には扱いきれないかも」 | ||
14 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
15 | なんとなくこそばゆいような、 なんとなく切ないような… | ||||
16 | 浜田 | Hamada | 「元気でな。 就職決まったら、また戻って来いよ? …風岡じゃないが、ウチに入ってくれても大歓迎だぞ」 | ||
17 | 春希 | Haruki | 「ありがとうございます…」 | ||
18 | それは多分、 もう選ばれるはずのない進路だったけど。 | ||||
19 | 一緒に働いていた人から戦力として認められたという 事実は、これから社会人を目指す自分に、 心からの自信として刻み込まれた。 | ||||
20 | 春希 | Haruki | 「それじゃ、失礼します」 | ||
21 | 鈴木 | Suzuki | 「あれ、浜田さん切っちゃったの? 北原君なら代わってって言ったじゃないですか!」 | ||
22 | 浜田 | Hamada | 「あ~、すまん、忘れてた。 すぐ掛け直すわ」 | ||
23 | 鈴木 | Suzuki | 「…ま、いいです。 事後承諾しておくべきことがあったんだけど。 多分問題ないでしょ」 | ||
24 | 浜田 | Hamada | 「…本当にそれでいいんだな? 後で揉めても俺のせいじゃないぞ?」 | ||
25 | 木崎 | Kizaki | 「しかし風岡さんに続いて北原も脱落か… どうなって行くのかなウチの編集部は」 | ||
26 | 松岡 | Matsuoka | 「ホント、困りましたよねぇ… 早く頼もしい後任の人が来てくれないものか…」 | ||
27 | 浜田 | Hamada | 「そこで『俺が北原の分まで一人で頑張ります』 とか啖呵切る若手がいたらこんな心配は必要ないのに…」 | ||
28 | 松岡 | Matsuoka | 「『俺が風岡の分まで一人で回してみせる』 とか余裕かます先輩がいないせいじゃないですかねぇ…」 | ||
29 | 木崎 | Kizaki | 「しかし風岡さん、あっさり行っちゃったな。 俺、彼女が北原に気があるんじゃないかって噂、 結構本当っぽいと思ってたんだけど…」 | ||
30 | 鈴木 | Suzuki | 「へぇ…」 | ||
31 | 浜田 | Hamada | 「あの暴風が? 部下でバイトの大学生に? …そりゃ、ネタとしては最高だけどな」 | ||
32 | 松岡 | Matsuoka | 「麻理さんが年下になびくとは到底思えないけどなぁ… 自分より仕事できない男、相手にしなさそう」 | ||
33 | 鈴木 | Suzuki | 「ふぅ~ん」 | ||
34 | 木崎 | Kizaki | 「やっぱ考えすぎかぁ… けどさ、それだといつまで経っても 相手見つからないんじゃないか? あの人…」 | ||
35 | 浜田 | Hamada | 「いや、だからいつまで経っても…なんでもない」 | ||
36 | 松岡 | Matsuoka | 「あんなに格好いいのに。 ホント、勿体ないですよねぇ」 | ||
37 | 木崎 | Kizaki | 「そうやって『格好いい』ばかりで、 誰も『可愛い』って見てないところが問題なのかもな」 | ||
38 | 浜田 | Hamada | 「さ、面白い冗談はこれくらいにして、仕事仕事! 松岡ぁ、お前今日こそ上がるんだろうなぁ?」 | ||
39 | 松岡 | Matsuoka | 「任せといてくださいっ! 今夜72時くらいには余裕っすよ!」 | ||
40 | ……… | .........
| |||
41 | 鈴木 | Suzuki | [F16「………事実は冗談よりもよっぽど面白いって本当ね」] | ||
42 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
43 | 外に出ると、はかない冬の陽はもう傾いていた。 | ||||
44 | しばらく外に出ていなかった身には、 この、突き刺すような冷たさの伴う強い風は、 痛さを伴って染みてくる。 | ||||
45 | その痛みの思った以上の激しさは、 自分の中にわだかまる、焦りにも似た感情によって 増幅されているせいかもしれない。 | ||||
46 | 今、自分が置かれている立場と、 自分のしている行動の繋がりが見えないという焦りの。 | ||||
47 | 何、してるんだろうな、俺。 | ||||
48 | 勝手過ぎて、一方的過ぎて、念のため過ぎて、 飛躍しすぎてるって自分でもわかってるのに。 | ||||
49 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
50 | 『昨日のこと』 | ||||
51 | 『昨日、依緒からスキーに誘われたよ』 | ||||
52 | 『レンタカー借りて、わたしたち四人で、 しかも泊まりがけ…って話みたい』 | ||||
53 | 『春希くんにも、武也くんから話が行くからって。 もう聞いてるかな?』 | ||||
54 | 『わたし、スキーってやったことないんだ。 もちろんスノボも。 春希くんってやったことあったっけ?』 | ||||
55 | 『本当は昔から一度はやってみたかったんだ。 ただ、わたしってインドア派のイメージあったし、 実際そうだったから今まで声かからなかったんだよね』 | ||||
56 | 『でも、今さら始めるのはどうなんだろう? ちゃんと上達するのかな? 滑れるようになるのかな?』 | ||||
57 | 『あの二人、揃って運動神経いいから、 のこのこついていったらいきなり頂上連れてかれたり、 置いてきぼりにされたりしそうだよね』 | ||||
58 | 『春希くんはどうする? わたしは、いろいろと迷ってる』 | ||||
59 | 『…春希くんが行かないって言ったとき、 どうしようか、迷ってる』 | ||||
60 | あの、雪菜の誕生パーティ以降。 …麻理さんとの破局以降。 | ||||
61 | 俺たちのメールは、何気なく復活してた。 | ||||
62 | クリスマス直後は、そんな気持ちになれなかったけど、 今はただ、こうして日常のやりとりを 淡々と続けられる程度には元通りになっていた。 | ||||
63 | 俺は、自分の気持ちが雪菜じゃない方に傾いたのを 自覚しているのに。 | ||||
64 | 雪菜は、俺の気持ちが自分じゃない方に揺れたのを 感じ取っているのに。 | ||||
65 | なのに俺たちは、 そんな数日間の、心の空白から目をそらしてる。 | ||||
66 | 『Re:昨日のこと』 | ||||
67 | 『武也なら、昨日の夜電話があった』 | ||||
68 | 『ただ、いつ行くのかも、どこに行くのかも まだ全然決まってないって話だったから、 そんな状態で人に答えを求めるなって説教しておいた』 | ||||
69 | 『…そういえば、一つだけ決まってるのは、 雪菜を釣るために温泉だけは外さないってことだとか』 | ||||
70 | 『俺も、スキーもスノボもやったことない。 研究室でスキー合宿って話が出たけど、 幹事権限で潰したくらいだし』 | ||||
71 | 『というわけで、今のところ返事は保留してる。 まだ、行くか行かないか決められない』 | ||||
72 | 『だから、雪菜は、 俺のことなんか気にしないで決めてくれればいいよ』 | ||||
73 | 『曖昧な答えのままでごめん。 でもこれが、今の俺に答えられる限界だから』 | ||||
74 | 『それじゃ』 | ||||
75 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
76 | 送信ボタンを押す前に、一文だけ削る。 | ||||
77 | スキーの出欠に対しての『答え』なのか、 それ以外のことについてなのか、 自分でも曖昧になってしまっていたから。 | ||||
78 | ほんの少しだけ文章量の減ったメールが、 送信ボタンとともに電波へと変換されていく。 | ||||
79 | 俺たちは、これから先、どうなっていくんだろうか。 | ||||
80 | こうして雪菜と少しずつ少しずつ雪解けしていって、 いつの日か…それこそお互いが社会に出る頃にでも、 そこに新たな大地の芽吹きを感じるのかな? | ||||
81 | それともまた、三年前に溶けたあの雪のように、 汚い地面を剥き出しにしてしまうのかな? | ||||
82 | あるいは、生殺しみたいに、長い凍結の時間を いつまでも引きずったまま歩んでいくのかな? | ||||
83 | でも、そんな消極的な道の選び方をしたら、 麻理さんとはもう二度と会うことはできない。 | ||||
84 | あのひとを選ぶなら、雪かきをするしかない。 必死に汗を流して、手を動かし続けるしかない。 | ||||
85 | だってもう、 彼女は俺の手の届かないところに行ってしまったんだから。 しかも、物理的に。 | ||||
86 | …あいつと、同じように。 | ||||
87 | 俺は今、何をやってるんだろう。 何を…やりたいんだろう。 | ||||
88 | 今日、こうして外に出て色々としてきたことも、 果たして、汗を流していることになるのか、 手を動かしたことになるのかわからないまま。 | ||||
89 | 本当に正しいことなのか、わからないままで。 | ||||
90 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
91 | 電車に乗ろうとしたときに、 その騒音に掻き消されそうなほど小さく、 俺の携帯が鳴った。 | ||||
92 | けれどそこには、予想してた武也の名前はなく、 代わりに映し出されていたのは、 俺の知らない配置の10桁の数列。 | ||||
93 | 春希 | Haruki | 「はい…?」 | ||
94 | そして、そこから聞こえてきた声は… | ||||
95 | 春希 | Haruki | 「………え?」 | ||
96 | 微妙に聞き覚えのある、 けれどあまり聞き慣れない親しげな声だった。 | ||||
97 | ……… | .........
| |||
98 | …… | ......
| |||
99 | … | ...
| |||
100 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
101 | 佐和子 | Sawako | 「やほ~春希くん。 久しぶりね~」 | ||
102 | 春希 | Haruki | 「雨宮さん…」 | ||
103 | 佐和子 | Sawako | 「ん~…?」 | ||
104 | 春希 | Haruki | 「………佐和子さん」 | ||
105 | 微妙に聞き覚えのある、 けれどあまり聞き慣れない親しげな声が、 真夜中のバーで、俺を出迎えた。 | ||||
106 | ……… | .........
| |||
107 | 佐和子 | Sawako | 「それじゃ… [R麻理^じゃまもの]のいない、二人きりの夜に」 | ||
108 | 春希 | Haruki | 「…ネタですよね?」 | ||
109 | 佐和子 | Sawako | 「それは春希君の解釈に任せるわ。 とりあえず、お疲れさま」 | ||
110 | 春希 | Haruki | 「俺はもう春休みですから。 それに、バイトも最近はしてないし」 | ||
111 | 佐和子 | Sawako | 「やめちゃったの? 開桜社」 | ||
112 | 春希 | Haruki | 「元々俺、麻理さんの部下ですし。 麻理さんがいなくなったら、 もう雇用関係はないも同然ですから」 | ||
113 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
114 | 『麻理さんがいなくなった』という言葉が出た途端、 佐和子さんは、今まで口に含んでいた酒が 急に苦くなったかのように、顔をしかめた。 | ||||
115 | そしてその苦味は、自分で口にした俺にも伝わる… | ||||
116 | 春希 | Haruki | 「ところで… 俺の連絡先は麻理さんから?」 | ||
117 | 佐和子 | Sawako | 「ううん、鈴木ちゃんに聞いた。 こっちから出した交換条件に思いっきり食いついてね」 | ||
118 | 春希 | Haruki | 「は………はぁ」 | ||
119 | 交換条件? | ||||
120 | 佐和子 | Sawako | 「迷惑だった? でもわたしの方から無理に聞き出したんだから、 鈴木ちゃんを責めないでね」 | ||
121 | 春希 | Haruki | 「そんな風には思ってません。 けど…」 | ||
122 | 交換条件って…? | ||||
123 | 佐和子 | Sawako | 「それにね、一度だけ春希君に掛けたことあるのよ? グァムから、年明け早々に」 | ||
124 | 春希 | Haruki | 「っ!? 佐和子さんだったんですかあれ?」 | ||
125 | 佐和子 | Sawako | 「…結局、ワインの藻屑と消えてしまったけどね」 | ||
126 | それは俺が、麻理さんにあろうことか 逆恨みの感情を抱いてしまった… | ||||
127 | それと同時に、あらゆる複雑な想いを爆発させた、 ある意味始まりの鐘の音… | ||||
128 | 佐和子 | Sawako | 「それ以来、麻理の奴 以前にも増してガードが堅くなりやがってさ。 春希君の番号だけは死んでも教えるかって…」 | ||
129 | 春希 | Haruki | 「………っ」 | ||
130 | まさかそれが、第三者による感情操作だったなんて。 | ||||
131 | 俺たちの始まりに、麻理さんの責任なんか、 これっぽっちもなかった。 | ||||
132 | あの時の俺は、何も悪くない麻理さんに対して、 ただ一方的に自分の負の感情をぶつけただけだった。 | ||||
133 | それなのに、あのひとは… | ||||
134 | 佐和子 | Sawako | 「…なんかダメージ受けてる?」 | ||
135 | 春希 | Haruki | 「俺…」 | ||
136 | 佐和子 | Sawako | 「ま、今日はそんな古いことは忘れて、 とりあえず潰れるまで飲みましょう? 生き残った方が既成事実を作る方向で」 | ||
137 | 佐和子さんの、そんな軽快な振りに対して、 その瞬間の俺が軽快に返せるはずもなかった。 | ||||
138 | 今日の、この時間の意味がわかってしまったから。 | ||||
139 | いや、最初からそうじゃないかと思ってた疑惑が、 とうとう確信に変わってしまったから。 | ||||
140 | ……… | .........
| |||
141 | 佐和子 | Sawako | 「ふぅ~、酔っちゃった。もう駄目かもわたし」 | ||
142 | 春希 | Haruki | 「確かにそれだけの酒量であることは認めますが、 実はちっとも酔ってませんよね?」 | ||
143 | 乾杯してから、10分も経たないうちに駆けつけ三杯。 | ||||
144 | それからも5分に1杯のペースを頑なに守り、 次々とグラスを傾ける佐和子さん。 | ||||
145 | 佐和子 | Sawako | 「…ホント、細かいわね春希君」 | ||
146 | 春希 | Haruki | 「麻理さんの強さは知ってますから。 当然、いつもそれに朝まで付き合ってる 佐和子さんの強さも押さえてます」 | ||
147 | けれどその呂律は、いつまでもしっかりと回り、 口から出る軽口が全て計算尽くというのが丸わかりだった。 | ||||
148 | 佐和子 | Sawako | 「ふぅん…麻理のお酒の強さは知ってるんだ。 あいつがとことんまで飲むところに立ち会ってるんだ」 | ||
149 | 春希 | Haruki | 「それは…その…」 | ||
150 | 佐和子 | Sawako | 「なんてね。 お互い、今さら誤魔化さなくてもいいわよね」 | ||
151 | 春希 | Haruki | 「それって、つまり…」 | ||
152 | 佐和子 | Sawako | 「たとえ雇用関係が異動とともになくなったとしても、 男女関係はそんなに簡単には消えないわよね?」 | ||
153 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
154 | そして、杯を傾けてから30分… | ||||
155 | やっと佐和子さんが、 俺に、懐に隠してた光るものを見せた。 | ||||
156 | 佐和子 | Sawako | 「麻理と…寝たんでしょ?」 | ||
157 | 春希 | Haruki | 「…はい」 | ||
158 | 佐和子 | Sawako | 「それも一度きりの過ちとかじゃなくて…」 | ||
159 | 春希 | Haruki | 「彼女の部屋に、何度も泊めてもらいました。 …鍵も、もらいました」 | ||
160 | 佐和子 | Sawako | 「…ふぅ」 | ||
161 | そして俺は、佐和子さんの刃に対し、 自分の胸を指差して応えた。 | ||||
162 | だって俺も、彼女の『本当の目的』を、 早く正面から受け止めたかったから。 | ||||
163 | 彼女が俺に問い質したいことがあったように、 俺も彼女に聞きたいことが山ほどあったから… | ||||
164 | 佐和子 | Sawako | 「ねぇ、春希君。 わたしは今、結構あなたに腹を立ててるのよ?」 | ||
165 | 春希 | Haruki | 「最初からわかってました…」 | ||
166 | 佐和子 | Sawako | 「二、三発殴っても罰あたらないんじゃないかって、 そのくらいは思ってるのよ?」 | ||
167 | 春希 | Haruki | 「思ってるだけじゃなく実践してください。 逆に、俺はそれを願ってるんだから」 | ||
168 | 佐和子 | Sawako | 「わたしが殴っても、麻理の傷は癒えないのよ? …あなたは罰を受けた気になって、 少しは救われるのかもしれないけど」 | ||
169 | 春希 | Haruki | 「………すいません」 | ||
170 | 佐和子さんの、何でも茶化すような口調はなりを潜め、 俺の懐にえぐり込むように刃を突き刺そうと、 何度も厳しい言葉を浴びせてくる。 | ||||
171 | 佐和子 | Sawako | 「わたしは、麻理の側の人間だから、 麻理に不利になるようなことは言わない」 | ||
172 | けれど、刺されている立場の俺に言わせれば、 その刃の切っ先は、ひどく鈍かった。 | ||||
173 | 佐和子 | Sawako | 「特にあいつは、今の段階で圧倒的に不利だからね。 …ちっとも駆け引きしてやがらないんだもの」 | ||
174 | ちっとも俺の罪に見合った殺し方じゃない。 傷一つつけられていない。 | ||||
175 | 佐和子 | Sawako | 「だから今は、 ただ、あなたの気持ちを確認しておきたいだけ」 | ||
176 | ただ『後悔してるんだろう?』って、 優しく問いかけているようにしか思えない。 | ||||
177 | 佐和子 | Sawako | 「春希君… あなた麻理のこと…」 | ||
178 | 春希 | Haruki | 「好きです…」 | ||
179 | 佐和子 | Sawako | 「………どういうところが?」 | ||
180 | 春希 | Haruki | 「その…こう言ってしまうのはもの凄く不遜だって、 相手のこと軽く見てるって思われるかもしれませんが…」 | ||
181 | 佐和子 | Sawako | 「いいから、続けて」 | ||
182 | 春希 | Haruki | 「可愛くて」 | ||
183 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
184 | 俺が、彼女に対して罪悪感を抱いたときの、 逆の意味で俺を責め立てる拗ねた表情とか。 | ||||
185 | 普段の彼女らしくない切羽詰まった態度とか、 それに気づいて本気で落ち込む仕草とか。 | ||||
186 | 春希 | Haruki | 「年上の女性にこんなこと思ってしまうのは、 俺の感性の問題かもしれませんけど…」 | ||
187 | 俺に、強引にされたときの… | ||||
188 | 羞恥と戸惑いを滲ませながら、 それでも快感に悶える、あのときの息遣いと、声… | ||||
189 | 佐和子 | Sawako | [F16「そこまで見せてるの…? ][F16麻理の奴、本物の本当に本気なんだ」] | ||
190 | 春希 | Haruki | 「佐和子さん?」 | ||
191 | 佐和子 | Sawako | 「…それで?」 | ||
192 | 春希 | Haruki | 「…嬉しかったんです。 仕事じゃ見せない顔、俺にだけ見せてくれることが」 | ||
193 | 部屋にいるときの彼女は、 世界で俺だけのもののように思えて。 | ||||
194 | 春希 | Haruki | 「あんなに広い世界を持ってて… しかもその中を自由に飛び回れる麻理さんが、 俺みたいな男にこだわってくれるのが」 | ||
195 | ベッドにいるときの彼女は、 世界で俺しか見ていないように思えた。 | ||||
196 | 春希 | Haruki | 「すごく、心に染みたんです。 …彼女に最初に求めてたことを忘れてしまうくらい」 | ||
197 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
198 | そんな俺の赤裸々な告白を… | ||||
199 | 佐和子 | Sawako | 「おかわり」 | ||
200 | 佐和子さんは、 一杯飲み干すのと同時に聴き終えた。 | ||||
201 | 相変わらず、酔った気配なんか微塵も感じさせずに。 | ||||
202 | 佐和子 | Sawako | 「…ちょっと意外だった」 | ||
203 | 意志の強そうな瞳を、 けれど先程までの非難するような視線とは、 微妙に光を変えて、こちらに向ける。 | ||||
204 | 佐和子 | Sawako | 「まさか麻理のこと、 ハッキリ好きだって言うなんて」 | ||
205 | 春希 | Haruki | 「だって、好きですから…」 | ||
206 | 佐和子 | Sawako | 「『嫌いじゃないけど…』とか言ったっきり、 その先が続けられなくてグダグダ悩むのかと思ってた」 | ||
207 | 春希 | Haruki | 「俺のしてることは、それと変わらないですよ…」 | ||
208 | 佐和子 | Sawako | 「そうかな? 印象的には、それほど悪くなかったわよ?」 | ||
209 | 春希 | Haruki | 「好きだって言ったところで、言わなかったところで、 俺のしたことが最低だってことに変わりないです」 | ||
210 | 佐和子 | Sawako | 「む…?」 | ||
211 | 春希 | Haruki | 「誰に対しても好きって言えないんじゃなくて、 誰に対しても好きって言ってしまっただけなんです…」 | ||
212 | 佐和子 | Sawako | 「春希君…」 | ||
213 | 春希 | Haruki | 「変わり、ないですよ。 誤魔化されてるんですよ、佐和子さん。 …麻理さんと、同じように」 | ||
214 | 佐和子 | Sawako | 「自己分析できるんだ… 自分の悪いところ、冷静に見れるんだ」 | ||
215 | 春希 | Haruki | 「いくら見れたって、 直せないなら意味がないんです」 | ||
216 | あの時から… | ||||
217 | 雪菜を裏切って、 かずさと離ればなれになったあの日から… | ||||
218 | ずっと俺は、自分の欠点を知っていた。 | ||||
219 | 俺の取る態度が、語る言葉が、選ぶ決断が、 どういうプロセスで雪菜の心を傷つけ、 そして互いの溝を開いてしまうのか… | ||||
220 | 自分がどういう人間だから 雪菜を悲しませてしまうのか、 三年間、自覚し続けていた。 | ||||
221 | なのに改められないなんて、 そっちの方が残酷で、無能だ。 | ||||
222 | 春希 | Haruki | 「だから俺の言葉になんて、説得力がないんです。 …何の意味もないんですよ」 | ||
223 | 何の意味もないはずなのに、 今日はその、無意味な言葉がよく回る。 | ||||
224 | 雪菜に対して言えないことが、 雪菜に対してだけは言えないことが、 次から次へと、口の外に零れ出る。 | ||||
225 | 好きな人の、親友で… けれど、過去にたった一度しか会ったことのない人に。 | ||||
226 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
227 | 俺が言葉を止めると、 佐和子さんは、俺から視線を外し、 何かを考え込むように正面を見据える。 | ||||
228 | 呆れたのか、諦めたのか、 それとも憎しみを抱いたのか… | ||||
229 | 思い詰めた表情と、傾け続けるグラスが、 何を意味するのか、今の俺には… | ||||
230 | 佐和子 | Sawako | 「来月にね…」 | ||
231 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
232 | 佐和子 | Sawako | 「あの子、もう一度帰国してくるの。 …今度こそ、赴任のための最後の準備でね、 次に渡米したら、もうしばらくは帰ってこないと思う」 | ||
233 | 春希 | Haruki | 「佐和子、さん?」 | ||
234 | 佐和子 | Sawako | 「だからその時… 麻理と、もう一度だけ話してあげて」 | ||
235 | 春希 | Haruki | 「………ぇ?」 | ||
236 | 佐和子 | Sawako | 「麻理の親友としてのお願い… あのコに最後のチャンスを与えてあげて!」 | ||
237 | 春希 | Haruki | 「何、を…?」 | ||
238 | けれど、佐和子さんが抱いていた感情は、 呆れでも、諦めでも、ましてや憎しみでもなかった。 | ||||
239 | 佐和子 | Sawako | 「お願い、春希君!」 | ||
240 | それどころか、 まるで彼女の方に非があるかのような、 意味のわからない懇願、だった。 | ||||
241 | まるっきり、俺の言ったことを理解していない… いや、最初から理解するつもりのないような… | ||||
242 | 麻理さんの、無償の庇護にも似た、 雪菜の、折れない優しさにも似た、 温かくて、そして、愚かな… | ||||
243 | そんな、世界の法則を無視したような 甘すぎる条件は… | ||||
244 | 春希 | Haruki | 「でも俺、今はまだ麻理さんに会えません…」 | ||
245 | 佐和子 | Sawako | 「どうして!?」 | ||
246 | 今の俺には、逆に辛すぎた。 | ||||
247 | 春希 | Haruki | 「本当は、最初から二人で会えるはずなかったんです。 …少なくとも、男の顔して会う資格なんかなかった」 | ||
248 | 佐和子 | Sawako | 「それって…」 | ||
249 | 春希 | Haruki | 「今の俺は、麻理さんを傷つけたあの時から、 何も変わってないんです。 …会ったところで、結果は変わらないですよ」 | ||
250 | 佐和子 | Sawako | 「…冬馬かずさのこと? それとも、今、春希君の側にいる彼女のこと?」 | ||
251 | 春希 | Haruki | 「…麻理さんって、 佐和子さんに本当になんでも話すんですね」 | ||
252 | 佐和子 | Sawako | 「気を悪くしたかな? なら謝るけど」 | ||
253 | 春希 | Haruki | 「いいえ…悪くないです。 俺にとっては、すごく好ましいです」 | ||
254 | 俺も雪菜も、それができずに一人で抱え込み、 自滅するタイプの人間だったから。 | ||||
255 | 春希 | Haruki | 「俺は麻理さんに、昔好きだった人の面影を見てた。 麻理さんを、今でも好きな人と同時に好きになった」 | ||
256 | そういう、堂々としていて、まっすぐで、 信じた相手には何でも話す裏表のないところに、 俺はいつしか惹かれていったんだから… | ||||
257 | 春希 | Haruki | 「…そんな状態のまま、 どんな顔して許してくれって言えるんです?」 | ||
258 | 佐和子 | Sawako | 「………なら、いつ?」 | ||
259 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
260 | 佐和子さんは、 前向きな誤魔化しには簡単に引っかかるけど、 後ろ向きの誤魔化しは簡単に見破ってみせる。 | ||||
261 | 佐和子 | Sawako | 「いつなら会ってくれるの?」 | ||
262 | 春希 | Haruki | 「佐和子さん…」 | ||
263 | 佐和子 | Sawako | 「いつになったら決断できるの? 麻理を選ぶか、麻理を捨てるか…」 | ||
264 | “今は”会えないという言葉の意味を、 見逃してはくれなかった。 | ||||
265 | 佐和子 | Sawako | 「言っておくけどねぇ… 麻理には、あなたみたいに 長い時間は用意されてないのよ?」 | ||
266 | 春希 | Haruki | 「そんなこと…」 | ||
267 | 佐和子 | Sawako | 「あるのよ! ぶっちゃけ麻理は四捨五入するともう30なのよ!」 | ||
268 | 春希 | Haruki | 「さ、佐和子さん…?」 | ||
269 | 佐和子 | Sawako | 「あいつ、この調子じゃ、ものすっごい引きずるよ? 5年は新しい男見つけられないの確定よ!」 | ||
270 | けれど… | ||||
271 | その口から飛び出した言葉は、 俺の予想の完全に斜め上を飛んでいた。 | ||||
272 | 佐和子 | Sawako | 「春希君の5年と麻理の5年は違うんだからね! あいつが5年後いくつになってるかわかる?」 | ||
273 | 春希 | Haruki | 「そんな… そんなことがあるわけが…」 | ||
274 | 佐和子 | Sawako | 「ないと思う? ならその根拠は!」 | ||
275 | だって… あんな綺麗で、格好良くて、頭のいいひとに… | ||||
276 | あんな不器用で、可愛くて、愚かなひとに… | ||||
277 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
278 | ない…とは言い切れないという結論に、 異様に鼓動が早まり、嫌な汗が流れる。 | ||||
279 | 俺は、彼女の恋愛に対しての不器用さを知ってる。 | ||||
280 | 不器用だからこそ、俺に出会うまで、 独りでいてくれたんじゃなかったか… | ||||
281 | 不器用だからこそ、うろたえていたからこそ、 俺は、抱きしめずにいられなかったんじゃなかったか… | ||||
282 | 佐和子 | Sawako | 「新しい男が出来そうな頃には30超えてるのよ? あなたのせいで、もう20代終了なのよ麻理」 | ||
283 | 親友だから…なんだろうか。 | ||||
284 | ここまで容赦ない人物評と、 最悪の未来図を描けるのは… | ||||
285 | そんな身も蓋もない表現なのに、 深い愛情が篭もってるってわかってしまうのは。 | ||||
286 | 佐和子 | Sawako | 「だから、早く決断してあげて。 …もし捨てるなら最悪の別れ方してやって。 思い切り冷たく嘲笑ってやって」 | ||
287 | 春希 | Haruki | 「そんなこと、俺は…」 | ||
288 | 佐和子 | Sawako | 「そうするしかないの! すぐ次の恋に走らせるか、 一生恋を諦めさせるかしないと駄目なの!」 | ||
289 | 春希 | Haruki | 「…っ」 | ||
290 | いつまでも決断できないままの俺を、 佐和子さんは、思いもしなかった方向から切り崩す。 | ||||
291 | 佐和子 | Sawako | 「わかる? 今回のことはね、 麻理の今までの人生で一番深刻な事態なの。 …あなたがあの子をズブズブの深みにはめたから」 | ||
292 | 俺の優柔不断を責めるんじゃなくて、 麻理さんの想いの深さを責めることで、 言葉の刃を棍棒のように使い、力任せにぶん殴る。 | ||||
293 | 佐和子 | Sawako | 「わたし、前に言ったわよね? 麻理があなたのことを認めた理由…」 | ||
294 | 春希 | Haruki | 「け、けどあれは…」 | ||
295 | 佐和子 | Sawako | 『盲目的に惚れたか、あいつに釣り合う男か』 | ||
296 | 佐和子 | Sawako | 「…まさか、そのどっちもだとは思わなかったけどね」 | ||
297 | 佐和子さんの言ってることは、滅茶苦茶だ。 | ||||
298 | 『麻理に不利になるようなことは言わない』 と言っておきながら、 今となっては彼女の弱点の暴露ばかり。 | ||||
299 | まるで俺に『攻め入るなら今だ』と、 [R唆^そそのか]しているような… | ||||
300 | いや… [R唆^そそのか]してるんだろうな。 | ||||
301 | 彼女の信じる『親友のため』には、 きっと、俺が必要なんだろうな。 | ||||
302 | 佐和子 | Sawako | 「あなたが決めてあげて… 麻理には、仕事以外で そんな重い決断をできる勇気なんかないの」 | ||
303 | その認識に、 とても賛意を唱える気にはなれないけれど。 | ||||
304 | けれど、本当に親友なんだなって… | ||||
305 | 心から彼女を愛してるってことが、 気持ちよく伝わってくる。 | ||||
306 | 春希 | Haruki | 「ねぇ、佐和子さん…」 | ||
307 | 佐和子 | Sawako | 「なに?」 | ||
308 | どうしてそんな… 俺に、希望を持たせるようなことを言うんですか? | ||||
309 | 俺に、幸せになれなんて、 そんな恐ろしい決断を迫ったりするんですか? | ||||
310 | 春希 | Haruki | 「結局、俺と麻理さんが駄目になってしまったら… 彼女のこと、任せてもいいですか?」 | ||
311 | なんて、聞けなかったけど… | ||||
312 | 佐和子 | Sawako | 「もともとそういう役目なのよ、わたしは。 任せておきなさい」 | ||
313 | 春希 | Haruki | 「ありがとう、ございます…」 | ||
314 | それでも、その時の彼女の答えは、 俺の心を十分に温めてくれた。 | ||||
315 | 今、手元にあるこの酒よりも心地良く… | ||||
316 | ……… | .........
| |||
317 | …… | ......
| |||
318 | … | ...
| |||
319 | 佐和子 | Sawako | 「で、どう? 向こうの仕事には慣れた?」 | ||
320 | 麻理 | Mari | 「何日ぶりの日本語かしら… もう忙しくて目が回りそう」 | ||
321 | 佐和子 | Sawako | 「初っ端から飛ばすわねぇ…」 | ||
322 | 麻理 | Mari | 「今週で取りあえず取引先の9割は回ったかな? 名刺、300枚刷ったのにもうなくなりそう」 | ||
323 | 佐和子 | Sawako | 「そっかそっか… 仕事は順調か」 | ||
324 | 麻理 | Mari | 「自信がなきゃ海外赴任なんて希望しないわよ。 30前にせめてデスクにはなっておかないとね」 | ||
325 | 佐和子 | Sawako | 「忙しいのも結構だけどさ… ちゃんと寝てる?」 | ||
326 | 麻理 | Mari | 「ね…寝てる」 | ||
327 | 佐和子 | Sawako | 「具体的には何時間くらい?」 | ||
328 | 麻理 | Mari | 「さ……三時間」 | ||
329 | 佐和子 | Sawako | 「昨夜?」 | ||
330 | 麻理 | Mari | 「………今週。 月曜から今日までで」 | ||
331 | 佐和子 | Sawako | 「麻理ぃぃぃ!」 | ||
332 | 麻理 | Mari | 「ひぅっ」 | ||
333 | 佐和子 | Sawako | 「なにやってんのよ! 慣れない環境でいきなりそんな無茶してたら、 身体どころか心も壊しちゃうよ?」 | ||
334 | 麻理 | Mari | 「だ、大丈夫大丈夫… 今まで何年も無茶してきたんだし」 | ||
335 | 佐和子 | Sawako | 「あんた寝ないで働く春希君を叱り飛ばしたのよね? 人のふり見て人のふりしか直してないじゃない!」 | ||
336 | 麻理 | Mari | 「春希君………だと?」 | ||
337 | 佐和子 | Sawako | 「あ~、北原君北原君。 名前でなんて呼んでないから。ホントだから」 | ||
338 | 麻理 | Mari | 「北原…北原…」 | ||
339 | 佐和子 | Sawako | 「あ…」 | ||
340 | 麻理 | Mari | 「北原、北原、北原ぁ… う、うぇぇ…ぃぐっ、ぅ、ぅぅぅ…」 | ||
341 | 佐和子 | Sawako | 「し、しまった… 1分も経たないうちに泣き上戸モードの スイッチを入れてしまった」 | ||
342 | 麻理 | Mari | 「ふぇぇぇぇ…ぅぇぇぇぇぇ~…っ」 | ||
343 | 佐和子 | Sawako | 「ったくもう。 寝不足だからそうやってすぐ泣けてくるのよ?」 | ||
344 | 麻理 | Mari | 「寝てないだけじゃないのよぉ… 寝られないのも混じってるんだからぁ…」 | ||
345 | 佐和子 | Sawako | 「独り寝がそんなに寂しい?」 | ||
346 | 麻理 | Mari | 「………26年生きてきて、 こんな寂しい夜を過ごすのは初めてかも。 おかしいわよね、いつもと何も変わらないのに」 | ||
347 | 佐和子 | Sawako | 「いや、真面目に答えられても困るんだけど」 | ||
348 | 麻理 | Mari | 「じゃあ何て答えればいいのよぉ! そんなに苛めなくてもいいじゃなぁい…っ」 | ||
349 | 佐和子 | Sawako | 「…飲んでるでしょ、今」 | ||
350 | 麻理 | Mari | 「あんただって飲んでるでしょぉ? いつも以上にシニカルだし」 | ||
351 | 佐和子 | Sawako | [F16「さっきまで誰と飲んでたか知れたら ][F16どうなることやら…」] | ||
352 | 麻理 | Mari | 「はぁ…もう私、佐和子の電話だけが心の支えよ… 絶対に、絶対に…これからも見捨てたりしないでねぇ?」 | ||
353 | 佐和子 | Sawako | 「あんたねぇ… だからそこまで落ち込むくらいなら、 別れるなんて言い出さなきゃよかったのよ…」 | ||
354 | 麻理 | Mari | 「それは駄目。 私だって、女としてのプライドも少しはあるもの。 捨てられてもまだすがるなんて、どうしてもできない」 | ||
355 | 佐和子 | Sawako | 「なんでもうちょっと柔軟に考えられないかなぁ? 相手年下だよ? もうちょっと余裕見せてあげたら? あんた直球すぎ、融通利かなすぎ」 | ||
356 | 麻理 | Mari | 「う…」 | ||
357 | 佐和子 | Sawako | 「ついでに相手のこと惚れすぎ。自分さらけすぎ。 どこの純情可憐な乙女よって言ってやりたいくらい」 | ||
358 | 麻理 | Mari | 「私…今回の恋に関してはさ、 向こうに一方的にイニシアチブ握られてたの…」 | ||
359 | 佐和子 | Sawako | 「だよねぇ…」 | ||
360 | 麻理 | Mari | 「あいつの何気ない言葉や態度に振り回されて、 あいつのたった一言で天にも昇ったり、 何気ない態度で海の底にまで沈んだり」 | ||
361 | 佐和子 | Sawako | 「今も引きずってるくらいだし」 | ||
362 | 麻理 | Mari | 「まるで、ずっと年下の女の子みたいに、 されるがままだった。 …あぁ、今思い出しても恥ずかしすぎる」 | ||
363 | 佐和子 | Sawako | 「悶えるないい歳して」 | ||
364 | 麻理 | Mari | 「そして…その恥ずかしさに、 あろうことか快感まで覚えてた…」 | ||
365 | 佐和子 | Sawako | 「………M?」 | ||
366 | 麻理 | Mari | 「………冷静に考えてみると、 私って、あっち関係では本当にそうかもしれない」 | ||
367 | 佐和子 | Sawako | 「そ、そうなんだ…」 | ||
368 | 麻理 | Mari | 「あいつには、あんなに酷いことばかりされたのに、 いつも激しすぎて気を失ってしまうくらいだったのに…」 | ||
369 | 佐和子 | Sawako | 「ちょ、ちょっと…」 | ||
370 | 麻理 | Mari | 「なのに今となっては、 その行為が、どれ一つとして嫌だった記憶がないの」 | ||
371 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
372 | 麻理 | Mari | 「それどころか、身体がその時のことを覚えてて… 自分で慰めても、どうにもおさまらなくて…」 | ||
373 | 佐和子 | Sawako | 「い、一体どんなすごいことされたのよ!?」 | ||
374 | 麻理 | Mari | 「言えない。 あんなこと、親友にだって言える訳ない。 ………はぁぁぁぁ~」 | ||
375 | 佐和子 | Sawako | 「う…うらやましい」 | ||
376 | ……… | .........
| |||
377 | 麻理 | Mari | 「………え?」 | ||
378 | 佐和子 | Sawako | 「だからさぁ、やっぱ話し合いなよ。 そこまで未練あるんだからさぁ」 | ||
379 | 麻理 | Mari | 「で、でも私にだって…」 | ||
380 | 佐和子 | Sawako | 「彼が自分の意志で会いに来るなら… 自分が一方的に悪かったって頭下げるなら、 あんたのねじくれたプライドだって満足でしょ?」 | ||
381 | 麻理 | Mari | 「…なんか悪意を感じる」 | ||
382 | 佐和子 | Sawako | 「来月、一度帰国するんでしょ? そのとき、戻ってるってだけメールするのよ。 それで来るかどうかは彼次第」 | ||
383 | 麻理 | Mari | 「け、けど…」 | ||
384 | 佐和子 | Sawako | 「もし来なかったらきっぱり諦めろ!」 | ||
385 | 麻理 | Mari | 「っ…」 | ||
386 | 佐和子 | Sawako | 「でも、可能性があるなら頑張ろうよ? 結果も出てないうちに諦めるのは麻理らしくないよ? …ま、仕事関連に限定すれば」 | ||
387 | 麻理 | Mari | 「でも…」 | ||
388 | 佐和子 | Sawako | 「も~、さっきからでもばっかり!」 | ||
389 | 麻理 | Mari | 「もし話せても、 私のアメリカ行きはもう変わらないのよ…」 | ||
390 | 佐和子 | Sawako | 「…まぁ、それはね」 | ||
391 | 麻理 | Mari | 「この前も言ったじゃない… 彼、遠距離は…」 | ||
392 | 佐和子 | Sawako | 「結果も出てないうちに諦めるのは麻理らしくないよ? …何度言わせる気?」 | ||
393 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
394 | 佐和子 | Sawako | 「それに… きっと彼、会いに来てくれると思うよ? 麻理のこと、今でも想ってくれてると思うよ?」 | ||
395 | 麻理 | Mari | 「どこにそんな根拠があるのよ… あんたの脳天気な希望的観測なんかに 期待できるわけないでしょ」 | ||
396 | 佐和子 | Sawako | [F16「確かな根拠はあるんだけどね…」] | ||
397 | 麻理 | Mari | 「…やっぱり駄目。 連絡取れない。取る勇気ない」 | ||
398 | 佐和子 | Sawako | 「あんたねぇ…」 | ||
399 | 麻理 | Mari | 「そうだ… 佐和子が連絡してくれれば… あんたの押しで北原を連れてきてくれれば…」 | ||
400 | 佐和子 | Sawako | 「そのくらい人に頼るな! あんたの男でしょ!?」 | ||
401 | 麻理 | Mari | 「駄目よそんなの、怖くて怖くて…」 | ||
402 | 佐和子 | Sawako | 「あ~もうっ! 仕事の時は何でもかんでも自分勝手に決めるくせに! どうして男が絡むとこんなに…っ」 | ||
403 | 麻理 | Mari | 「だって私… あいつに女にされたようなものだから」 | ||
404 | 佐和子 | Sawako | 「『ようなもの』どころか事実そうなんでしょ? この鉄の処女」 | ||
405 | 麻理 | Mari | 「絶対に内緒よ! 誰にも秘密よ! もしバラしたりしたら絶交だからね!」 | ||
406 | 佐和子 | Sawako | 「ホント、北原君が働き者でよかった。 もし生活能力のない駄目男に引っかかってたら、 あんた貢ぎ女まっしぐらよね…」 | ||
407 | 麻理 | Mari | 「もうとっくに貢いでる! もうすぐ給料三か月分!」 | ||
408 | 佐和子 | Sawako | 「それはあんたが勝手に舞い上がって、 彼のためにって使い込んだだけでしょ」 | ||
409 | 麻理 | Mari | 「………っ」 | ||
410 | 佐和子 | Sawako | 「とにかく! 帰ってくる日が決まったら連絡しなさい! わたしにも、そして彼にもよ!」 | ||
411 | 麻理 | Mari | 「ちょ、ちょっと…だから私、そんな…」 | ||
412 | 佐和子 | Sawako | 「それじゃあね! 健闘を祈る!」 | ||
413 | 麻理 | Mari | 「待って、待ってよ佐和…」 | ||
414 | 佐和子 | Sawako | 「ホント、世話の焼ける…」 | ||
415 | 佐和子 | Sawako | 「でも… わたしのできることはここまでだからね?」 | ||
416 | 佐和子 | Sawako | 「もう、さすがに後は任せたからね… 頑張れ、二人とも」 | ||
417 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
418 | 佐和子 | Sawako | 「着信拒否したろか…」 |
Script Chart
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |